長浜赤十字病院臨床研修プログラム (臨床研修プログラムはこちら)
当院の初期研修医の研修プログラム責任者をしている救急科の中村です。当院のプログラムの目的とその内容について述べさせてもらいます。病院選びの参考にしてもらえれば幸いです。
当院の医師育成の方針は、「腕の良い専門医である前に、良い医師であれ。良い医師である前に、良い社会人であれ。」というものです。特に初期研修の2年間では「良い社会人」「良い医師」の基礎を作ることが重要と考えています。
その目標達成のため、以下のような内容でのプログラムを運用しています。
なお全体的なタイムスケジュールは【プログラムの概要】を参照して下さい。
当院でもメンター制度を採用しています。メンターとは先輩たちに“何でも相談できる兄貴姉貴分”になってもらう制度です。社会人として歩み始めた時には色々な悩みが出てくると思います。その時の話し相手になってもらいます。
1年目:当院の特徴として1年目のメンターには医師ではなく、メディカルフタッフに担当してもらいます。後述する救急集中治療カンファレンスで週3回定期的に顔をあわせるメンバーの中から選びます。社会人の先輩としてまずは君達を支えます。原則秘密厳守なので、愚痴や医師の先輩には言いにくいことでも相談しやすいです。
薬剤部 メンター
検査部 メンター
リハビリ メンター
栄養課 メンター
看護部 メンター
看護部 メンター
「看護師や理学療法士、管理栄養士、検査技師、薬剤師などメディカル・スタッフとコミュニケーションをとることで、医師以外の視点や考え方が学べます。困ったことがあれば何でも相談してね」
2年目:2年目メンターは、今後進もうと思っている診療科の中堅医師が担当します。もしまだ進路科が決まっていない場合は、私と相談し希望する医師に依頼します。2年目はこれからの進路を決める大切な時期です。このキャリア形成期の相談相手として助けになるはずです。
毎年5-6月に新入社員が集まって研修会を行います。職種は問わず、医師、看護師、その他専門職、事務職員の1年目達がグループに別れて話し合いをしたり、レクリエーションで絆を深めたりします。
当院にはいくつかのクラブ活動があります。日頃の交流だけでなく、年1回近畿の赤十字病院が集まり病院の威信をかけたスポーツ大会があります(院長も出席)。
スポーツ以外にもアウトドア部やサイクリング部などもあり、色々な職種の人達と交流出来ます。
皆さんにはこの2年間で最低限基本的な救急疾患に対応出来る能力を身に付けてもらいたいと考えています。つまり、3年目に小さな病院でひとり当直が出来たり、乗り合わせた乗り物の中で急病人が出た場合(私自身は新幹線で1回、飛行機で1回あります)恐る恐るながらも対応が出来る様になって欲しいと思います。
当院には救命救急センターがあります。三次救急とはいえ、非常に軽症な方から精神疾患を抱えた方まで多種多様な患者さんが受診されます。ここの業務に2年間携わってもらうことで、皆さんに救急への自信をつけてもらいます。原則5月の連休明けからセンターでの当直業務に入ってもらいますが、急には出来ないので以下のような形でサポートしていきます。
4月から5月にかけて各科の部長に、救急現場で遭遇しやすい疾患や外傷、ピットフォールについての講義を行ってもらいます。20コマ以上を集中的に講義してもらいます。1年目はまず基礎知識を整理してもらい、2年目は1年間救急を経験した上での再確認を行ってもらいます。
ICLSコースとは日本救急医学会が行っている医療従事者のための蘇生トレーニングコースです。「突然の心停止」に対し、最初の10分間を複数職種が“チームとして”活動できる様になることを目的としています。院内で開催しますので、できるだけ早い時期に受講してもらいます。
中心静脈ラインの確保や縫合処置、人工呼吸管理、胸腔穿刺など基本的な手技については、2年間でできるだけ自力で出来る様になってもらいたいと考えています。講義やシミュレーターあるいは動物の臓器を用いた実習を行います。また救急初療室や集中治療室で実際にそのような処置があった場合には、積極的に参加してもらいます。
実際に救命救急センターで当直に入る場合は、1年目2年目を問わず必ず指導医と1:1で行ってもらいます。研修医の単独診療は認めていません。但し、決して指導医の後ろで見学してもらう訳ではなく、多くの場合当直を始めて1ヶ月もしないうちに患者さんとのファーストコンタクトは君たちが行うことになります。初めのうちは君たちの後ろに指導医が立ちますが、そのうち慣れてきたら指導医は患者さんから見えない位置まで離れて君たちの診療のやりとりに聞き耳を立てるようになります。一旦診察を終えて患者さんを待合に出したのち、診断や検査の組み立てについてディスカッションしながら診療を進めていきます。
当直は内科系、外科系、小児科のいずれか1つを選択して行います。つまり内科系を選択した日は、外科系や小児科の患者さんが居ても呼ばれません。概ね週1回程度の当直で、毎回どの科を選択するかは研修医自身に任せてあります。当直翌日は午後から帰宅してもらいます。なお、どの指導医と一緒に当直するかは研修医自身が決めているので、私を含めた指導医側は選ばれる立場です。
患者さんの治療に当たって、病気になった臓器のみを診ていても本当の治療とは言えません。身体・こころ・社会的問題など、全人的な視点と支援が必要です。しかしそれらを一人の医師がすべて行うことは、かなりの困難を伴います。そのために病院では、様々な分野を担当する職員がお互いに連携しながら一人一人の患者さんを支えています。医師はチームリーダーとしてみなをまとめることが求められており、そのためにはどの職種がどのような専門性を持っているのかを知る必要があります。
1つのチームを約5ヶ月間継続して、計3チームに参加してもらいます。単に病棟ラウンドに参加するだけでは無く、チームの一員としてラウンド内容を記録したりディスカッションに積極的に参加してもらいます。終了時点で双方向評価を行っています。
病院は当然状態のあまり良くない患者さんが多く入院されており、想定外の心肺停止を起こすことがあります。このため将来どの科を選択したとしても病棟で患者さん急変に遭遇することになり、基本的な救急蘇生法を身に付けておくことは医師として必須です。
滋賀県北東部を範囲とする「湖東湖北救急医療ブロック」の中心となる三次救急病院である当院は、1ヶ月に10〜15件の心肺停止状態の方が搬入され救急初療室で救急蘇生が行われています。この処置に研修医が参加し、基本的な救急蘇生法を習得してもらいます。
さらに2年目研修医には、蘇生チームをリーダーとして指揮する経験をしてもらい、医療チームを統括する力を養ってもらいます。
医療は一人では出来ません。治療には必ず複数の職種が関わるため、医師はチームリーダーとしてメンバーを目標に向けてまとめていく必要があります。その課程で「伝える力」を養うことは非常に重要です。
患者さんの状態や今後の治療方針について、チームメンバーにプレゼンテーションすることは医師にとってはまさに日常業務の一つです。しかし現在の臨床研修システムでは、研修期間を通して一貫してプレゼンテーションを行っていくことは難しいです。なぜなら現在のシステムは1〜3ヶ月程度で研修する科が変わり、プレゼンテーションの頻度も内容もその度ごとに変わってしまうからです。
この問題に対処するために、当院では「救急集中治療カンファレンス」を週3回 8:00より行っています。プレゼンテーションの対象は集中治療室に入室中の患者さんで、1年目研修医は患者さんの経過や状態、治療経過を把握しこれを約5分間でプレゼンテーションします。その内容を元に各専門職種が治療内容についてディスカッションを行い、2年目研修医が主治医にフィードバック出来る様にカルテに記事記載を行います。この研修が一番辛いそうですが、半年もすると皆さんプレゼンテーションが上手くなっています。
医師スタッフ | メディカル・スタッフ | ||
---|---|---|---|
主治医 | 脳神経科医師 | 薬剤師 | 理学療法士 |
集中治療科医師 | 精神神経科医師 | ICU看護師 | 臨床検査技師 |
救急科医師 | 感染管理認定看護師 | 臨床工学技士 | |
放射線科医師 | 研修医 | 管理栄養士 | 診療放射線技師 |
循環器内科医師 | 病院長 | 社会福祉士 |
このカンファレンスには、以下の目的があります。
学会に参加し知識を深めることは非常に重要です。特に自分の診療経験を学会や研究会で発表し、これを共有することは医師にとってある意味やらなければならない仕事の一つと考えています。1年目の秋に全国の赤十字病院や関連施設が集まって行われる日本赤十字社医学会総会でまず学会発表を行ってもらいます。2年目はメンターの先生とも相談しながら、自分の進路と考えている科を中心に研究会や地方会での発表を経験してもらいます。
2022年10月 第58回日本赤十字社医学会総会
於 北海道旭川市
コロナ禍で2年間学会が開催されなかったため、1年目、2年目皆で口演発表しました。
災害時に被災者を助けることは、全ての医師に求められていることです。当院は日本赤十字社の病院であり全職員が挙げて災害医療に取り組んでいます。
研修医は1年目に2日かけて「赤十字救護班要員研修」を受けてもらい、年1回の「院内大規模災害訓練」「原子力災害医療基礎研修」に参加してもらいます。これらで災害医療の基礎的な知識を身に付け、その後はイベント救護(長浜曳山祭、花火大会など)や滋賀県の総合防災訓練などで経験を積んでもらいます。また仮に実災害が発生した場合には、救護班の一員として派遣を行っています。
長浜曳山祭
長浜八幡宮のお祭り
毎年4月に開催
ユネスコ無形文化遺産に指定
観客4-7万人
長浜・北びわこ大花火大会
毎年8月に開催
観客11-13万人
災害名 | 派遣した研修医 | 派遣時期 | 主な活動内容 |
---|---|---|---|
東日本大震災 2011年 |
2名 (いずれも2年目) |
第5,6班派遣 | 巡回診療 DVT検診 |
熊本地震災害 2016年 |
1名(2年目) | 初動班派遣 | 避難所アセスメント 巡回診療 |
大阪府北部地震 2018年 |
1名(2年目) | 第2班派遣 | 避難所アセスメント |
米原市竜巻災害 2018年 |
1名(1年目) | 第2班派遣 | 巡回診療 |
西日本豪雨災害 2018年 |
1名(1年目) | 第2班派遣 | 救護所診療 |
東日本大震災 2011年
熊本地震災害 2016年
米原竜巻災害 2018年
西日本豪雨災害(岡山) 2018年
何度も述べたように医師はチームリーダーであり、チームを育てることも仕事の一つです。このため同じ医療者、ひいては地域の住民さんに対して「教える」ことを求められます。このことを研修医時代から経験することは非常に重要と考えています。もちろん「教えることは学ぶこと」であり自分の知識を整理し深めることにもなります。
1年目お世話になったメンターへの恩返しの意味も込めて、2年目にメンターの所属する部署で講義を行ってもらいます。もちろん単なる恩返しではなく、自分の話したい/話せる内容だけでは無く、相手の聞きたい/学習しておいた方が良い内容で講義が出来る様になることを達成目標としています。発表準備には2年目メンターにお手伝いしてもらいます。
前述したICLSを受講した後は、指導側に入り受講生に指導を行ってもらいます。対象は医師だけで無く、看護師や薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師など病院で医療に係わる職種や救急隊員など幅広い人達が対象となります。
赤十字病院は、地区分区とのつながりや県民大学や救急法講習などを通して市民の皆さんとのつながりを大切にする病院です。そのような中で、研修医の皆さんにも市民への講習に積極的に参加してもらっています。春に行われる「健康フェスティバル」での救急蘇生法講習や滋賀県総合防災訓練にあわせて行われる体験ブースでの応急救護処置講習、また湖北医師会主催の中高生対象の「医師体験ワークショップ」での指導などを経験してもらいます。
健康フェスティバル
最後になりますが各科の研修について説明します。以前の当院のプログラムは各科の研修が主で、全体を通して行う研修は従でした。このため教える内容の難度や教え方にばらつきがあり、好評な科がある一方で残念ながら不評な科もありました。更に当院の様な臨床を中心に行う病院では、どうしても各科の研修医指導が一般診療の終わる夕方以降にずれ込むことが多く、今後の医師働き方改革に対応するのが難しくなることが予想されました。このため研修医体系を大幅に見直し、全体を通して行う研修を主、各科の研修を従とするプログラムに変更しました。
しかし、それでも各科で行われる研修の重要性は変わりがないため各科に以下のような指導指針を示しています。
★各科推薦図書をあげる(研修期間内に読める程度)それを研修期間内に使用しながら研修できると良い研修医に求めるレベルもそれに合わせる
★稀少疾患に関しては深く触れる必要はありません
★手技は複数の科で使えるような汎用性のあるものを実践させる輸液路確保、US、栄養管理を含む維持輸液処方など
★特定領域でしか用いられないような手技は数回の見学程度でよい「俺たちすごいだろー」的な見せつけは不要
医師臨床研修指導ガイドライン 2020年度版より一部改変
医師としての基本的価値感(プロフェッショナリズム)
人として社会人としての資質向上
資質・能力
医療人としての基本的資質の向上
喜夫本的診療業務
医師としての基礎的診療の習得
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