2022年4月より総合外傷センターを開設しました。重症外傷診療体制の更なる充実をめざします。
私たちの暮らす滋賀県湖北湖東地域は都会のように人口が密集している訳ではなく、“大きな外傷”が多く発生するような印象はありません。しかし、この地域は古くから交通の要所で、鉄道(新幹線、JR、近江鉄道)や道路(名神高速道路、北陸自動車道、国道8号線、国道21号線、湖岸道路)が集中しており、時折大きな事故が発生しています。また、いくつもの大工場や工業団地があることから労災事故が発生したり、豊かな自然の中で農作業やレジャーに伴う事故での救急搬送が少なからずあります。
一方でひどい外傷の場合、大学病院のような県南部の大病院への移送は患者さんの身体への負担が大きすぎて困難となります。今までも当院は外傷の受け入れを積極的に行ってきましたが、更に充実した体制の整備が必要と考えました。
先に述べたように、当院では今までもひどい外傷の対応を行ってきました。重症の外傷の場合、複数回の手術や集中治療室での治療、リハビリテーションなどが長期にわたり必要となることがあります。その際には、身体のことだけでなく精神的・社会的支援が欠かせません。今までは主治医の裁量の中でこれらが行われていましたが、治療内容のバラツキを抑え必要十分な支援をどの方にも提供できるよう多くの職種がチームを組んで治療に当たります。これが「総合」の意図するところです。
このセンターを開設するにあたり、2つの目標の達成を目指しています。
前述の目標を達成するため、3つの『最大化』と2つの『支え』に取り組んで行きます。
要請を受けた傷病者を単に受け入れ治療するだけでは、重症外傷の救命率改善に限界があります。院内の多くの専門職が有機的に連携できるような調整機能を要する受入体制の構築と、メディカルコントロールや病院前救護体制を含めた連携の確立が必要です。
単に命が助かっただけでは十分でなく、その後の社会生活を送る上で身体・脳機能を維持することは非常に重要です。初期診療の段階から救急科や集中治療科等が調整役となり、脳神経外科、外科、整形外科、形成外科、泌尿器科、耳鼻いんこう科、歯科口腔外科などの機能維持にあたる専門科や、臨床支援部門(看護部、リハビリテーション科部、放射線科部、検査部、薬剤部、医療社会事業部社会課等)が有機的に協働作業できるような体制をとります
命と身体機能の維持だけでは不十分で、整容性(いわゆる“見た目”)を持つことも重要です。特に顔や手など他の人から見える部分に大きな傷跡を残さないことは、退院後の生活の質の向上に不可欠です。初期診療の段階から救急科や集中治療科等が調整役となり、形成外科、整形外科、耳鼻いんこう科、歯科口腔外科などの整容性保持にあたる専門科や、臨床支援部門(看護部、リハビリテーション科部、放射線科部、検査部、薬剤部等)が有機的に協働作業できるような体制をとります
大きな事故などで傷を負うのは身体だけではなく、「こころ」にも大きな傷を残します。初期診療の段階から救急科や集中治療科等が調整役となり、受傷患者本人やその家族のこころの支援にあたる精神神経科や、臨床支援部門(看護部、臨床心理士、リハビリテーション科部、医療社会事業課等)が有機的に協働作業できるような体制をとります
病院での治療やリハビリテーションを終えた後は必ず社会に戻ることになります。しかし退院後そのまま社会復帰することが難しい場合もあります。初期診療の段階から救急科や集中治療科等が調整役となり、退院後の社会復帰を見据えて支援部門(リハビリテーション科部、ソーシャルワーカー部門、看護部等)が有機的に協働作業できるような体制をとります
これまでは各科医師の持ち回りで救急外来を担当し、初期診療の後に必要に応じて各科に引き継ぐ体制を取っていました。一般的に多くの病院ではこのシステムが採用されていますが、この体制には以下のような問題点もあります。
このような問題点を解決するために「総合外傷センター」では以下のような診療体制を採用しています。
前述した「出血などによる死」群を救命するためには、受傷現場から病院に到着するまでのフェーズが重要となります。このフェーズは主に消防救急が担当していますが、病院からドクターカーを出し医療者を受傷者に早期に接触させることで病院への的確な情報の連携をはかっています。
当院救命救急センターには外傷処置室があり、専用の入口を通って救急車から直接入室します。患者さんは温度管理された室内で脱衣され、迅速に処置を受けることができます。
非常に不安定な重症外傷の場合には、速やかにダメージコントロール戦略に沿った処置を開始します。呼吸・循環の安定化に努めながら、ダメージコントロール手術や血管内カテーテル治療による緊急止血術等の蘇生処置を行っていきます。
このような他院では治療に手こずる病態に対しても常時対応可能な体制となっています。
蘇生処置を行い出血のコントロールがつけば、救命救急センターに併設された集中治療病棟に移ります。ここで引き続き厳重な全身管理を行っていきます。
初期治療での蘇生処置が終わったあとは、集中治療室での全身管理を行っていきます。全身状態の安定を図り、タイミングを診ながら待機的な根治手術や再建術を施行します。
この救命治療中、併せて全人的苦痛の緩和にも努めます。これには様々な専門性をもつ職種が一同に集まりカンファレンスを行うことが重要です。多方面から患者さんの苦痛を理解し、その緩和に向けた協力を行っていきます。
なお当院には数多くの精神科医が常勤しており、「こころ」を支えるという点では県内他の医療機関より充実しています。
多職種カンファレンスには、
が参加します。
必要に応じ、手術室看護師や地域医療連携課職員などに参加してもらうこともあります。
中村誠昌(救急科部長):胸腹部外傷・血管外傷担当
長門 優(集中治療科部長):集中治療・外傷麻酔担当
白川 努(救急科部副部長):四肢脊椎骨盤軟部組織外傷担当
藤井雅士(麻酔科部副部長):集中治療・外傷麻酔担当
増田翔吾(救急科部医長):外傷血管内治療(IVR)
日野篤信(放射線科医師):外傷血管内治療(IVR)
樋口一志(脳神経外科部長):頭部外傷担当
中村一郎(第二外科部長):胸腹部外傷担当
大田信一(放射線科部長):画像診断・血管内カテーテル治療担当
村崎 岬(救急科部医長):一般外傷外科、外傷麻酔担当
増田鋼治(形成外科部長):形成外科外傷・熱傷担当
中島正敬(産科部長(兼)婦人科部長):妊婦外傷担当
原田吉将(泌尿器科部長):腎尿路系・外陰部外傷担当
菊岡弘高(耳鼻いんこう・頭頸部外科副部長):頭頚部外傷担当
中村英樹(精神科部長):外傷精神治療担当
山本正仁(新生児科部長):小児外傷支援担当
浅田泰幸(歯科口腔外科部医長):口腔外傷担当
救命救急センター、総合外傷センターでは共に働いていただける医師を募集しています。